月光 36号 特集「あの人に贈る一首」掲載原稿



f0100480_18371667.jpg




「鶏頭......母へ」




 暗 く 赤 く ほ ぐ れ ぬ も の を 持 つ こ と も 美 し き か な 鶏 頭 の 襞    高木佳子




 花に性愛を重ね合わせるようになったのは、私が高校1年生、1970年のことだ。そのような特定ができるのは、’70年の「少年マガジン」に掲載された“昭和の絵師”上村一夫の漫画「鶏頭の花」を読んだときの何とも言えぬ背徳感を覚えているからだ。そもそも花などに興味のなかった無粋漢であったが、以来、庭に咲く野辺に咲く鶏頭には目を遣るようになる。


 性愛は限りになく死に近く、鶏頭の花は母の頬に咲いた。1998年クリスマスイヴを迎えた未明、母は日本初のホスピスを設けた淀川キリスト教病院で亡くなる。頬の腫瘍は口腔を貫通し赤い空花となり、腐りゆくものの臭いを放つ。患部の神経はほぐれぬほど絡まっており手術は困難だった。私はずっとお酒を飲んでいた。葬儀の手配も兄まかせで、酔うて何が起こっているのか、悲しいのかどうかさえ分からずにいた。


 血液の病気を罹患した今、死を思うことも多くなり、そんなとき鶏頭の花が頭に浮かぶ。得体のしれぬもの、手の届かぬものはそれゆえに美しい。私が聞いた母の最期の言葉は、なぜか「美しい」だった。





f0100480_18454732.jpg

只今のながらCD

BLAK AND BLU / GARY CLARK JR.
[PR]
Commented by 雪太郎 at 2015-01-19 17:39 x
年明けて初コメです。あけましておめでとうございまする~。
鶏頭の赤に、血や死を連想することは、私にはなかったので、はぁ~なるほど・・・と。
性愛や生命を考える年齢よりずっと早く、幼い頃に鶏頭の花を教えてもらったので、結びつかないのかもしれません。
それどころか、「ケイトウ」という音と、あの花のモフモフした質感から、「毛糸」を連想してしまうんです。
そのモノの名前を、どのくらいの年齢で知ったかによって、そのモノに対する思いが変わるんでしょうね。
おもしろいですね。
 
腐りゆくものの臭いは祖母の死のときに理解しました。
ちなみに私が聞いた祖母の最期の言葉も、パンタタさんのお母様の「美しい」に似て、「きれいかねぇ(綺麗ね)」でした。
私のことではありませんよ、綺麗な花を持っていったんです(笑)
Commented by パンタタ☮ at 2015-01-20 20:47 x
雪太郎君へ

弥一郎のブログ、絶好調ですね。
書き込みはしていないけれど、毎日楽しく読んでいます。
私もですね「ケイトウ」は「毛糸」と小さいころ思っていました。いつだったかな、植物自体を知ったのは。
言葉って不思議な力があるでしょ、
「鶏頭」という言葉を知ってから
ふわふわの乾燥した「毛糸」が湿りを帯びて「鶏頭」になる。
その湿度、手触り感の違いなど、現物より先に言葉から来るよね。
さてさて、私の母が言った最後の言葉「美しい」は、
陽が沈む前の黄金に輝いた雲の輪郭を見てでした。
それから頬の腫瘍のために目は見えなくなったようです。
今年は十七回忌だなあ。
法要するのかいな、兄に電話しなきゃ。

ではでは。

by alglider | 2015-01-09 18:37 | Comments(2)

さびしさを糸でかがればかぎ裂きのかたちしてをり棘のあるらし


by alglider
プロフィールを見る
画像一覧