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ああ九月、歌の季節よ!    一首


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16:20



や わ ら か き 九 月 の 森 を 越 え て ゆ く 未 成 の ま ま の ぼ く の 口 笛




やわらかきくがつのもりをこえてゆくみせいのままのぼくのくちぶえ



 先週は


 月光の会の夏合宿(東京)から帰ったばかりで疲れてしまい、ブログ更新をサボってしまった。今から思えば、お酒を止めだしたころは狂ったように毎日更新していて、あれはあれで離脱症状の一種だったのだなあ、と思う。何か自分で続けられることがあることを必死に証明しようとしていたのだった。それは2006年3月から始めて2012年まで続いたけど。'12年の冬に2か月ほど入院して、その気力はなくなってしまった。それからほぼ日曜日に更新することにしたのだった。


 月光の会の歌誌『月光』53号(10月末発行予定)は歌集を出した私、つまり『汀の時』の特集号になる。ありがたいですねえ。それで、いろいろと原稿を頼まれそうになるのを身をかわし身をかわし、やっているのだが(笑)、まあ、それなりの書き物はしなくてはならない。歌集評に山田航、井上法子、エッセイに池上きくこ(葉ね文庫店主)が決まっていて(敬称略)、豪華。私も楽しみにしている。後は月光のメンバーによる歌集評、一首評になると思う。


 2日は道浦母都子さんの歌会に出ていたのだが、来月は歌会の皆さんで『汀の時』の合評会をしてくださるという。それで、参加メンバーに9冊買っていただけた。まだ、私自身はまだ1年にも満たない新参者なのだが「窪田さんの歌、好きです」という女性が3名いらした。ありがたし。



 mixiでの友達である、あまでうすさんが歌集評を書いてくれ、Amazonのレビューにも転載してくれた。参考になった人が4人も。許可を得て下記に載せる。




 半透明の帯に縦長で「シュメールの忘れ去られた猫のよう青い眼の咲く日暮れがくるの」という代表歌が記された、今年六二歳になる作者による第一歌集を拝読しました。


 作者は、「アルコール依存、骨髄増殖性潰瘍と不治の病を二ついただく」という歌にあるような難儀と、長らく戦い続けてこられた方らしい。


 岡部隆志氏の解説によると、作者は四九歳の頃にアルコール依存症の治療を始め、福島泰樹氏の歌集「風に献ず」に天啓を受け、自分の暗澹たる心を見つめるために五一歳から短歌を始めたそうですが、「終活のひとつにせんとS席のキース・ジャレットをいちまい求む」というような歌を読むと、その暗澹との戦いの激烈さと悲壮に胸を打たれます。


 おそらく「汀の時」というタイトルは、生と死の汀、それも限りなく死に近い汀における生き胆のやり取りを、なんとか生存の証としての歌に刻もうとしての命名と思われます。


 作者自ら歌うように、「そう、たとえば机のうえのノートにもはにかむような血の痕が」あるのです。


 面白いことに、この歌集は創作年代の逆順に並べてあります。つまり冒頭から前半で最近作が読めるのですが、興味深いことに旧作よりも表現が平明になりつつも、内容に滋味が深まりつつあるような気がするのです。



 そんな屁理屈を並べてても旗本退屈男でしょうから、以下に私が気に入った作品を無断で7つご紹介いたしましょう。



舌を垂れ涎を垂れて犬のごと上目遣いのいち日のあり


もう一度ひるがえる旗たれのため死ねと言うのか誇りにまみれ


いやそれはどうでもいいのさ生きている生きていないの以外のことなど


西日入るキッッチんンごろんとわたくしの半生がうち捨てられてある


これからは腹話術の時代がくるよわたしでもないあなたでもない


臆病なおとこでいたし八月の空より青く迫りくるもの






ああ五月きみシシュポスの風の吹くたれのためにぞ揺れる雛罌粟


 最後のは、私の大好きな与謝野晶子の「ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す 君も雛罌粟 われも雛罌粟」にカミュとヘミングウエイをちょっとスパイスした本歌取りですが、私は作者のこういう軽妙な機智とロマネスクも大好きなのです。


 もしかすると作者は、疾風怒濤、泥濘忍辱、臥薪嘗胆の後退戦に際どいところで勝ちを拾い、血まみれの汀から安息の彼方へと逃れようとしているのかもしれません。




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 「短歌往来」9月号に載った歌集『汀の時』評、全文。跋文を書いてくださった福島泰樹主宰に尋ねたのですが、誰がこの評を書いてくれたのか知らないとのこと。随分ときれいに踏み込んであります。一読した時に「注意ぶかく読めば、どの作品にも他者が不在なのだ。すべては記憶の水に反射する光のような影ばかりである…」と文章に違和感を覚えた。私は他者とばかりかかずらわってきたように思うのだが、それはずっと怯えのような係わりであったかもしれない。「他者の不在」とは、係わりのあった、という過去への追憶ばかりが歌われているということなのだろう。そうかもしれぬ。アルコール依存症者はとにかく眼前のことが苦手だ。


 『汀の時』のAmazonでの取り扱いが始まりました。『汀の時』(←クリック)。よろしくお願いします。短歌を続けることを見守っていてくれた、天満ガーデン・カフェの中野ひろ子ちゃんの旦那さんがやってる古本屋さん「駄楽屋書房」(天神橋三丁目)さんにも歌集『汀の時』を置いてもらいました。近くの方は手に取ってご覧いただけます。駄楽屋書房(←クリック)。よろしくお願いします。




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 8月29日から遅い夏休みを取って6日間、疲労回復と共にいろいろと用事を済ませていた。混むのを予想して平日に兵庫県美「怖い絵展」(←クリック)へ行ってきた。何の予備知識も持たず描かれた絵画とだけ向き合うという鑑賞法に疑問を呈したのが、この展覧会のプロデューサーとなった中野京子さんである。著書の「怖い絵」もベストセラーになりましたよね。「この絵にはこういう時代背景があり、こういう時代独特の仕方のない約束があり、残酷も残酷でなかった恐怖など…」そういう背景、裏の物語を知って鑑賞する絵画の饒舌なこと。しかし、そこには物語性だけで価値が上下するような軟な絵画では、やっぱりアカンのやね。結構楽しめました。これから行く人は双眼鏡持参、音声ガイドは借りることをお勧めします。あーっ、休みの間に「バベルの塔」に行けなかったのが失敗。無念。






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 歌集『汀の時』は直メ、ツイッター、フェイスブック、mixi、そしてこのブログ非公開のコメントで予約してくださると、送料はサービスしま~す。山椒さん謹製、活版印刷栞はもう少しあります。6首バリエーションがあります。詩歌の聖地「葉ね文庫」店主の池上きく子さんの笑顔とカバーを折る素敵な指先を見たい方は葉ね文庫(←クリック)でどうぞ。栞も付きます。





 そんなこんな。





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只今のながらMUSIC
FOUR MOMENTS / SEBASTIAN HARDIE






by alglider | 2017-09-03 16:15 | 短歌

さびしさを糸でかがればかぎ裂きのかたちしてをり棘のあるらし


by alglider
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