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M よ

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12:47

 徹夜明けのまぶしい日射しの中を帰宅


 昨日は旧交を深めた後、そのまま仕事へ向かったのだが、話の中でY 君が「そう言えば、僕の知っているカメラマンも死んでなぁ......」と、出たカメラマンの名前が知っている人で、少なからず思い入れのある人だったので「うぅ」と呻吟してしまった。私の入院していた病院の裏手の道を挟んだところにも精神病院があって、そこはアルコール専門ということではないのだけれどもアル症患者も入院している。死因は脳の血管が破れたことに因るらしいが、どうもそこに至るにはお酒が絡んでいて、彼はそこで亡くなったのである。


 よく一緒に飲んだのだが、その当時、私の飲み方に比べても尋常ではないものを感じていた。熱血漢で人情家、ひと昔もふた昔も前の気質の人だった。酒の残る赤い目で、民営化になったときの国鉄保線区の人々を撮り続け、酒場を撮り続け、在日朝鮮人問題を撮り続けていた。所謂社会派であったが、私の遠慮を知らない頼みに応じて雑誌やコマーシャルも気軽に撮ってくれた。重い写真なのだが、どこか人の心が明るく切り通しのように抜けて見える写真だった。


 通天閣の真下にある一見さんお断りの老舗のバーも彼の紹介で知り、通うようにもなった。まだ私が酒のみであった時の話である。高いスツールに座って「マスター、こいつよう飲みよんで、これからあんじょう面倒みたってや」と私は紹介されたのだった。手作りの真空管アンプを通して、上質の毛布に触れたような温かい音でジャズが流れていて、壁には東郷青児の直筆の絵が壁に直接描かれているバーだった。マスターがグラスに氷を入れてくるくると回し、グラスを冷やしている。彼は、これから撮りたい写真を怒ったように乱暴な言葉で語るのだった。そして素面の時、根っから大阪弁の彼は、「すんまへんな」と言ってどこにも入り込んで写真を撮り続けたのだと思う。それが、声と抑揚と共に容易に想像できる、そんな人柄だった。


 一般病院では幻覚が酷く、暴れるので、その病院に辿り着いたのだった。想像だが、空手の覚えもあったので、面倒だったのかも知れない。私は、こっそりその彼の写真で本を出すと、そんな遠い将来をぼんやり頭の中で描いていたのであった。彼ならアル中の写真が撮れると思っていたのだった。が、その彼が、アルコールで死んでしまったのだ。しゃれにならない。


 Mよ、安楽かか、そこにいることは、私はもう少し生きているよ、こちらで.........君とそっくりな顔をしたお母さんを訪ねるよ.......会いに行くよ


 書きながら涙が止まらないのである........





只今のながらCD

中島みゆき[紅灯の海]レフレインで.......レクイエムとして



けがれなき者よ、この海に迷い込むな
幼き者よ この海に憧れるな
あてない明日と しどけない過去の日々が
すれ違うための 束の間の海だ
櫂もなくして舵もなくして 浮かれ浮かれ身も世もなしに
足は千鳥となり果てて 遠い月夜を物語る
紅灯の海に漂い ひとつふたつの思い出を抱き
紅灯の海は優しい 海と名の付くものは優しい


かもめよかもめよ 真白き指先は
手招きするか 別れを告げるのか
忘れたそぶりの 忘れえぬ面影が
灯台のようにひるがえる海だ
どこへ帰ろうどこへ帰ろう 浮かれ浮かれあてどもなしに
足は千鳥となり果てて 遠い月夜を物語る
紅灯の海に漂い ひとつふたつの思い出を抱き
紅灯の海は優しい 海と名の付くものは優しい

by alglider | 2007-05-07 12:39 | アルコールと自由

さびしさを糸でかがればかぎ裂きのかたちしてをり棘のあるらし


by alglider
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